●国産PCとしての安心感
−−PC的は5.6型ディスプレイ、プロセッサにAtom Z520、ストレージはSSDのみですね。そういったWindows 7マシンとしての基本的なスペックをこのサイズに収めることに対しては問題はなかったのですか。
益山:いや、問題だらけでした(笑)。
−−SSDを用いれば小さくするのはそれほど難しくないのかなと思ったのですが。
益山:4時間のバッテリー駆動時間ははじめの段階で決めていましたので、結果、底面全部がバッテリーになるほどのスペースが必要になりました。その上に薄い基板を載せてキーボードを載せたら、もうほぼスペースがない。さらに小さいファンも搭載しています。
−−ファンは必要ですか。
益山:当初ファンレスも検討しましたが、設計から「ファン入るよ」と(笑)。設計が頑張ってくれてサイズを変えずに入れ込めましたが、内部は本当にビチビチです。ただ、ファンは相当付加をかけないと回らないですし、出来るだけ大きいファンを低回転で回るようにしているので、音は静かです。
藤田:やはり「持って使う」というハンドリングを考えたときに、万が一のことがあるといけないですから、製品としての安全への考え方ということです。デザイナーとしてはその分薄くなるなら薄くしたいということはあるんですけども。
−−多くのユーザーは薄さよりは軽さを優先すると思います。
藤田:おっしゃるとおりです。すでに使われているお客様はそこに気づいていらっしゃると思うんです。多少大きくても軽いほうがいいとおっしゃる。一方でやはり、特にメディアさんでは薄さが非常にフィーチャーされやすいですし、店頭でも比較しやすい点ですからね。そこのせめぎ合いはありましたね。
−−ファッション性やデザイン性だけが優先されているわけではないのですね。
藤田:そこもデザイナーとしてはいろいろせめぎ合いがありますよね。例えばキーストロークを0.3ミリ犠牲にすれば装置が0.3ミリ薄くなるわけですけど、LOOX Uでは2ミリ近いストロークを確保しています。そういったところは非常に葛藤するところではありますけど、使い勝手のいいキーボードにしようというスタンスは大事にしました。
−−キーボートやクリックボタンのインターフェイスに関してはデザイナーとエンジニア、どちらがされるのですか。
藤田:話し合いの中でですね。人間工学的な専門家がデザインの中におりますので、その見地と、もちろん実装が絡んできますので、常に両方関与しながら作っていきます。キートップ1つにしても、最近は見栄えだけで、まっ平らな隙間がまったくないようなものや斜面がまったくないキーボードがあるんですけども、評価をしますと指が引っ掛かるとか隣のキーを間違って打つなどいろいろありますので、今回も何個か作った中で、チョコレート形のキートップにしています。
−−安心感がありますし、キーボードらしいキーボードですよね。ちなみに前の機種の重量はどれくらいですか。
藤田:565グラムです。軽量化するだけならできてしまいますが、強度維持の側面がありますので。安心というキーワードに対して絶対的な価値、強度は犠牲にできません。
−−従来機からさらにシェイプアップして500グラムを切ったのは簡単なことではないと思いますが、外装素材の選び方を含め、苦労点はありますか。
益山:通常、特に外板にはマグネシウムを使うことが多いです。うちの筐体はどんなに小さくても200キロ荷重をクリアしているんです。LOOX Uはプラスチック外装ですが、200キロ荷重をクリアするため、中にマグネシウムの骨を仕込んでいます。軽さを出しつつ強度を出すということで設計に頑張っていただいた。ですからLOOX Uも人が乗っても大丈夫です。
−−そのへんは国産メーカーの強みですね。
藤田:行き着くところは国内製品の安心感・信頼ですからね。
−−生産も日本の工場で、そこでないとできないノウハウなどがあるのですか。
藤田:モノ作りに対するこだわりなんじゃないかなと最近強く思います。「いいものを作りたい」という想いは国内設計に表われやすいのではないでしょうか。
−−ディテールの細やかな仕上げのきれいさも感じます。
藤田:単純に薄くしようとか、華やかにキラキラつけていくというのは海外でもできますけど、骨格となるモノ作りを含めていいものをという意思は、まだ国内生産のほうに感じます。
−−サイズもデザインから出していったのですか。
藤田:サイズは両手で打てて内ポケットに入るということで、ある程度限定されてきます。
益山:企画さんは500着以上のスーツの内ポケットを測って「このサイズを死守してください」と常々言っていました(笑)。
−−設計は大変ですよね。
藤田:アジアからもUMPCがくる中、自分たちの技術力を出していけるチャンスでもあるので、課題が与えられればチャレンジしますよね。
−−逆に燃えるのかもしれませんね。初期のモックアップには大きいサイズもあるので、こうして見ると紆余曲折があったのでしょうね。
藤田:ありましたね(笑)。この本質って何だろうと。2代目から3代目への移行期間は長かったですね。
益山:毎日図面を描いてはモックアップを作って。「昨日のはどれだっけ?」みたいな(笑)。
●ワークフローと使用CADツール
−−ワークフローについてですが、デザインツール的にはどういう流れになっていますか。
藤田:初めの絵は手描きで、次にIllustoraterやPhotoshopで描きます。その後はデザイナー個人によって違いますが、私のグループではまずボリュームモックを作ります。これは手で削るのが好きな人間は手で削ります。その後のツールとしては3次元のPro/Eを使います。少し前までは珍しいやり方だったと思いますが、デザイナー本人がPro/Eで3次元をひいています。ですから我々のデザイナーは全員Pro/Eが使えます。3次元のモデラーさんはいなくて、デザイナー=モデラーです。そのデータを使って外注でモックアップを作ったり設計に上げたりします。そのデータがそのまま設計の金型データになるケースは実際には少ないですけどね。
−−設計もPro/Eをお使いとのことですが、外側も中身も同じツールであれば後工程はスムーズですか?
藤田:そこは10年来の問題になっていて、100%ではないですけど、連携はしています。
−−デザイナーさんが描かれたPro/Eのデータはそのまま製造データまではいかないのですか。
藤田:いろいろなやり方がありますね。一部だけを流用したり、すべて作り直したり。それは商品と設計者のスキルによって変わってきます。よくCAD連携をやっているとおっしゃる他社さんのセミナーを聞きにいきますけど、どちら様も似たような状態でなかろうかと思います。
−−社内ではRPなどで造型しないのでしょうか。
藤田:この工場の敷地内に光造形機と簡単なインクジェットの立体を作る部署があるんですけど、精度の点などありまして現在は外の業者さんにお願いしています。
−−やはりほぼ製品と同等の質感がないと、なかなか評価しづらいということでしょうか。
藤田:そうですね。0.5ミリ単位の寸法を争いますし、LOOX Uでは光沢塗装した場合の見え方とかを特に気にしましたので。
−−ちなみにプロダクトデザイン部の中で、PC担当と他のデバイス担当の方がいらっしゃるのですか。
藤田:基本的にはパソコンと携帯電話に分かれていますが、それほど大きな部署ではありませんから毎日交流はあります。
益山:携帯チームも席が近いので、アドバンスデザインなどでは互いに人が行ったり来たりして一緒にやっています。垣根はあるようであまりない感じですね。
藤田:こういう商品の表面処理のノウハウなどは携帯電話と横展開していくところもあります。それを両方やっている富士通の強みとして、もっともっとやっていきたいですね。
−−例えば時期がきて、PCと携帯電話の人が入れ替わることもあるのですか。
藤田:あります。僕自身もこの間まで携帯電話でした。
益山:僕も5年前は携帯電話でしたし、両方やっているデザイナーが多いです。
−−携帯電話とPCではノウハウやスキルなど蓄積されてくるものが違いますよね。
藤田:違いますが、基本的にコンシューマ商品であるという点は同じです。大きな違いは富士通で直接販売するかキャリア様を通して販売するか、そこですね。
−−エンドユーザーは同じですから、そういった人たちの感性、趣味・嗜好やトレンドを反映するということでは同じですね。
藤田:むしろ、今は「富士通の携帯電話とパソコンはなんか違うよね」と受け取られてしまっているところがあって、そこは課題として受け止めています。そこにクオリティの差や使い勝手の差が感じられるというのは、両方見ている僕らの問題だと思います。
できましたら、富士通の携帯をお買い求めいただいた方にはパソコンも富士通のものを買っていただきたいですし、「揃えたい」という気持ちを持っていただけたら嬉しいです。
|